家の階段を見回してみてください。
手すりはどちら側についていますか?
実は、多くの階段で手すりが右側(降りる時に右手でつかめる位置)についているんです。
これって偶然でしょうか?
実は、事故統計と人間工学に基づいた、深い安全上の理由があったんです。
階段の手すりとは?基本的な概要
階段の手すりは、建築基準法で設置が義務付けられている安全設備です。
高さ1メートルを超える階段には、必ず手すりを取り付けなければなりません。
でも、左右どちらに付けるかは設計者の判断に委ねられています。
その時、多くの建築士が「右側」を選ぶのには、ちゃんとした根拠があるんです。
なぜ階段の手すりは右側にあることが多いのか?主な理由
理由1:階段事故の8割は「降りる時」に発生している
まず知っておきたいのは、階段での転倒事故は圧倒的に「降りる時」に多いということです。
統計によると、階段事故の約8割が下り階段で起こっています。
なぜ降りる時が危険なのでしょうか?
それは、人間の体の構造に関係があります。
- 上る時 – 前かがみの姿勢で重心が安定
- 降りる時 – 直立姿勢で重心が後ろに偏り不安定
だから、「降りる時の安全性」を最優先に考えて手すりの位置を決めるんです。
理由2:日本人の約9割が右利きだから
日本人の約9割が右利きです。
利き手の方が力も強いし、とっさの時の反応も早いんですね。
降りる時に右手でしっかり手すりをつかめれば、転倒を防ぎやすくなります。
これが「降りる時に右手側」に手すりを設置する最大の理由なんです。
理由3:心理的安心感が得られる
利き手で手すりをつかんでいると、人は安心感を感じます。
特に高齢者や子供にとって、この心理的効果はとても大切なんです。
不安があると足取りがおぼつかなくなって、かえって危険ですからね。
【例外】回り階段では「外周側」が基本
ただし、直線階段ではない「回り階段」の場合は、別のルールがあります。
外周側設置の理由
回り階段では、踏み面(足を置く部分)の幅が内側と外側で違います。
- 内側 – 幅が狭くて足場が不安定
- 外側 – 幅が広くて足場が安定
だから、利き手に関係なく「踏み面の広い外周側」に手すりを設置するのが基本なんです。
安定した足場の方に体重をかけられるからですね。
連続性の重要性
回り階段では、手すりの「連続性」も重要です。
途中で右側から左側に変わったりすると、かえって危険なんです。
「手すりを握ったまま、ぐるりと階段を回れる」ように設計するのが理想的ですね。
【建築基準】法律ではどう決められている?
建築基準法の規定
建築基準法では、「階段には手すりを設けなければならない」と定められていますが、左右どちらに設置するかは明確に規定されていません。
ただし、「両側に壁がある場合は少なくとも片側に手すり」「両側に壁がない場合は両側に手すり」という決まりはあります。
介護・バリアフリーの観点
介護保険の住宅改修では、「降りる時に利き手側」が推奨されています。
高齢者の転倒防止には、この考え方が特に重要なんです。
両側設置が理想
安全性を考えると、本当は両側に手すりがあるのが理想です。
でも、スペースやコストの関係で片側だけの場合は、「降りる時の利き手側」が基本になります。
世界各国ではどうなの?
イギリス
イギリスでは、交通が左側通行の影響で、階段でも「左側通行」の考え方があります。
だから手すりは左側に設置されることが多いんです。
アメリカ
アメリカでは右利きが多いことから、日本と同様に右側設置が一般的です。
ただし、建物の種類によって基準が細かく決められています。
北欧諸島
フィンランドやスウェーデンでは、バリアフリーの観点から両側設置が標準的になっています。
関連する面白い豆知識
豆知識1:手すりの高さにも科学的根拠がある
手すりの高さは、一般的に75〜85cmに設定されています。
これは、日本人の平均的な肘の高さを基準にしているんです。
子供用の施設では、60〜65cmの二段手すりにすることもあります。
豆知識2:手すりの太さは「握りやすさ」で決まる
手すりの太さ(直径)は、32〜36mmが標準です。
これは、日本人の手のサイズで最も握りやすい太さなんです。
太すぎても細すぎても、しっかり握れませんからね。
豆知識3:材質にも工夫がある
最近の手すりは、夏でも熱くならず、冬でも冷たくならない特殊な材質が使われています。
木製や樹脂製のものが人気ですね。
金属製だと、夏は火傷しそうなくらい熱くなるし、冬は氷のように冷たくなってしまいます。
【安全】なぜ手すりが命を救うのか?
転倒防止のメカニズム
手すりがあることで、以下の3つの安全効果があります。
- 体重支持 – 体重の一部を手すりで支える
- バランス保持 – ふらついた時の支えになる
- 心理的安定 – 安心感で足取りが安定する
高齢者にとっての重要性
65歳以上の高齢者にとって、階段は家庭内事故の主要な原因です。
手すりがあるかないかで、事故のリスクが大幅に変わります。
特に、筋力の衰えや関節の痛みがある方には、手すりは必須の安全装置なんです。
子供の安全にも効果的
小さな子供は、手すりを「下から握る」ように使います。
つり革につかまるような感じですね。
子供用の低い手すりがあると、より安全に階段を使えます。
【設計】理想的な手すりの条件
位置の条件
- 直線階段 – 降りる時に利き手側(多くの場合右側)
- 回り階段 – 踏み面の広い外周側
- 両側設置 – 最も安全(理想形)
構造的条件
- 連続性 – 途中で途切れない
- 始点・終点 – 階段の手前と奥まで延長
- 垂直部分 – 階段の始まりと終わりに縦手すりを追加
材質・形状の条件
- 握りやすい太さ – 直径32〜36mm
- 快適な材質 – 温度変化の少ない素材
- 滑り止め – 手が滑りにくい表面処理
まとめ
階段の手すりが右側にある理由は、「降りる時の安全性」を最優先に考えた結果でした。
事故の8割が下り階段で起こること、日本人の9割が右利きであることを踏まえて、利き手でしっかりつかめる位置に設置されているんですね。
回り階段では外周側、理想的には両側設置など、状況に応じた安全設計の考え方も興味深いものがありました。
普段何気なく使っている階段の手すりにも、こんなに深い安全への配慮が込められていたなんて驚きですよね。
今度階段を使う時は、手すりの位置と自分の利き手の関係を確認してみてください。
きっと設計者の思いやりを感じられると思いますよ。