職場で誰かに会ったとき、
「お疲れさまです」
と声をかけることがあります。
仕事が終わった人ならわかります。
でも、朝出社したばかりの人にも「お疲れさまです」。
メールの最初にも「お疲れさまです」。
まだほとんど何もしていないのに、
「いや、まだ疲れてないけど……」
と思ったことはありませんか?
実は「お疲れさま」は、現在では単純に「あなたは疲れていますね」という意味だけで使われているわけではありません。
もともとは相手の労をねぎらう言葉ですが、職場などではそこから意味が広がり、仲間同士の挨拶としても使われるようになっています。
今回は、「お疲れさま」がなぜ疲れていない人にも使われるのかを見ていきましょう。
「お疲れさま」はもともと何を表す言葉?
「お疲れさま」は、もともと相手の労をねぎらうための表現です。
国立国語研究所は、「お疲れさま」が「ご苦労さま」と同じように、もともとは「労をねぎらう」という行為から生まれた言葉だと説明しています。
つまり本来は、
「大変でしたね」
「よく頑張りましたね」
「疲れたでしょう」
といった気持ちを表す言葉だったわけです。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
ところが現在では、
仕事を終えた人
会議が終わった人
外出先から戻った人
だけではなく、仕事を始めたばかりの人にも使われます。
ここに、「お疲れさま」の面白い変化があります。
なぜ疲れていなくても「お疲れさま」と言うの?
理由は、「お疲れさま」が単なる疲労確認ではなく、職場の挨拶として使われるようになったからです。
国立国語研究所も、近年の「お疲れさま」は職場で使いやすい挨拶言葉になっているとしています。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
「同じ仕事をしている仲間」という感覚がある
職場では、会った瞬間に相手が疲れているかどうかを確認しているわけではありません。
「今日も仕事をしていますね」
「同じ職場で頑張っていますね」
というような、仲間意識を含む挨拶として機能しています。
文化庁の国語分科会でも、「お疲れ様」は上下関係だけで考えるのではなく、同じ仕事をした人同士が声を掛け合う場面で選ばれる表現だという議論があります。
(参考サイト:文化庁 国語分科会敬語小委員会 議事録)
そのため、実際に疲労しているかどうかは必ずしも重要ではありません。
挨拶の「こんにちは」に近い働きをすることもある
職場では、
「こんにちは」
と言うより、
「お疲れさまです」
のほうが自然に感じる場面があります。
たとえば社内ですれ違った同僚に、
「こんにちは」
と言うと、少しよそよそしく感じることがあります。
一方で、
「お疲れさまです」
なら、その場の関係性に合いやすい。
こうして「お疲れさま」は、ねぎらいの意味を残しながら、職場特有の挨拶としても使われるようになったと考えられます。
朝なのに「お疲れさまです」は変じゃないの?
意味だけを考えると、
「朝から疲れていることにするの?」
と不思議に感じます。
実際、国立国語研究所にも、
朝一番の挨拶に「お疲れさまです」を使うのが気になる
という質問が寄せられています。
国立国語研究所は、「お疲れさま」は本来ねぎらいの言葉なので、朝会ったばかりの相手やメールの冒頭で必ず使う必要はなく、場面によって使い分けるのがよいと説明しています。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
つまり、
朝の「お疲れさまです」は間違いではないけれど、本来の意味から見ると少し特殊な使い方
と考えると分かりやすいでしょう。
職場の習慣として定着しているため、不自然に感じない人が増えているわけです。
「お疲れさま」と「ご苦労さま」は同じ?
「お疲れさま」と似た言葉に、
「ご苦労さま」
があります。
どちらも相手をねぎらう言葉ですが、現在では使われ方に違いがあります。
「お疲れさま」は相手の疲れに目を向ける
国立国語研究所では、「お疲れさま」は相手の心身の消耗、つまり疲れに思いを向ける表現だと説明されています。
「疲れたでしょう」
「大変でしたね」
という感覚です。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
「ご苦労さま」は仕事そのものに目を向ける
一方、「ご苦労さま」は相手が行った仕事や作業の大変さに目を向ける表現とされています。
つまり、
「大変な仕事でしたね」
という感覚です。
現在のビジネスでは、
「ご苦労さま」は目上から目下
「お疲れさま」は目上にも使いやすい
という説明が広く知られています。
ただし国立国語研究所は、こうした上下関係だけで単純に使い分ける説明には無理があるとも指摘しています。
実際には、
誰が上か下かだけではなく、どんな場面で、何をねぎらっているのか
を見る必要があります。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
上司に「お疲れさまです」と言ってもいい?
現在の職場では、上司に対して「お疲れさまです」を使うことは広く受け入れられています。
国立国語研究所が紹介している1998年の東京都民1000人余りを対象にした調査では、上司に「お疲れさまでした」と言うことについて、肯定的な回答が9割近くに達していました。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
つまり、「お疲れさま」は少なくとも現代の職場では、かなり使いやすい表現になっています。
ただし、誰に対しても万能というわけではありません。
たとえば、
先生が授業をしてくれた
医師が手術をしてくれた
知らない人が落とし物を拾ってくれた
といった場合、
「お疲れさまでした」
より、
「ありがとうございました」
のほうが自然です。
国立国語研究所も、自分に直接利益や恩恵を与えてくれた相手には、まず感謝を伝えるほうが自然だと説明しています。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
メールの最初に「お疲れさまです」と書くのはなぜ?
社内メールでよく見るのが、
「お疲れさまです。○○です。」
という書き出しです。
これも相手の疲労状態を確認しているわけではありません。
メールには、いきなり用件を書くと冷たく感じられることがあります。
そこで、
「こんにちは」
「いつもありがとうございます」
のような役割を果たす挨拶として、「お疲れさまです」が使われています。
国立国語研究所も、仕事上の連絡で何らかの挨拶を入れたいという配慮から、「お疲れさまです」がメールの書き出しなどに使われるようになっていると説明しています。
(参考サイト:国立国語研究所 ことば研究館)
つまり、
「お疲れさまです」=疲れていますね
ではなく、
「仕事仲間として、まず一言ご挨拶します」
という働きが強くなっているわけです。
「お疲れさま」は意味より役割が広がった言葉
「お疲れさま」は、もともと相手の疲れや労をねぎらう言葉でした。
しかし現在では、
仕事を終えたとき
社内ですれ違ったとき
メールを送るとき
退勤するとき
など、非常に幅広い場面で使われています。
だから、相手が本当に疲れているかどうかは必ずしも関係ありません。
言葉の意味そのものが消えたわけではなく、
ねぎらいの言葉
↓
仕事仲間への声かけ
↓
職場で使える挨拶
と役割が広がっていったのです。
朝一番に「お疲れさまです」と言われても、
「まだ疲れてないよ!」
と突っ込みたくなる必要はありません。
相手は疲労を診断しているのではなく、
「今日もよろしく」くらいの気持ちで挨拶している
と考えると、ちょっと納得できますね。
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